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松山地方裁判所 平成9年(わ)113号 判決 2000年7月17日

主文

被告人株式会社Y1及び同Y2をそれぞれ罰金三〇万円に処する。

被告人Y2においてその罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社Y1は、松山市<以下省略>に本店を置いていた有限会社aを平成九年四月二三日に組織変更して設立されたものであるが、それ以前の平成八年四月一五日に愛媛県知事から建設廃材等の産業廃棄物の収集、運搬及び中間処分(焼却及び破砕)について許可を受け、産業廃棄物の処理等を業として営んでいた者、被告人Y2は、平成三年一〇月二一日から平成九年四月二三日までの間、a社の代表取締役として同社の業務全般を統括していた者であるが、被告人Y2は、同社の従業員であったA及びBと共謀の上、a社の業務に関し、同県知事による事業範囲変更の許可を受けないで、別紙犯罪事実一覧表(以下「一覧表」という。)記載のとおり、平成八年八月二三日ころから同年九月五日ころまでの間、前後二四回にわたり、同市<以下省略>所在の土地に設置した同社の産業廃棄物処理施設である「bセンター」内において、株式会社cほか三業者から処分委託を受けた産業廃棄物であるスレート片、プラスチック、コンクリート破片等、合計九一・一トンを処分代金合計一八万二〇〇〇円で受け入れた上、右産業廃棄物の埋立処分をし、もって、許可を受けないで事業の範囲を変更して産業廃棄物の最終処分の事業を行ったものである。

(証拠の標目)省略

(補足説明)

弁護人らは、本件について、産業廃棄物の収集、運搬及び中間処分の許可だけを受けていたa社の代表取締役であった被告人Y2や同社の従業員らが、本件現場に産業廃棄物を放出し、一覧表番号1ないし4記載の産業廃棄物を野積みにしたり、同表番号5ないし12記載の産業廃棄物に覆土していたことは認めるものの、廃棄物の「最終処分」の一種である「埋立処分」の要件として、廃棄物を放置して環境に排出する意思を要するものと解した上、被告人Y2らは、後日に破砕等の中間処分をする意図を有しており、廃棄物を放置して環境に排出する意思を欠いていたのであるから、被告人Y2及び被告人会社は共に無罪であると主張し、被告人Y2も公判廷において右主張に沿う供述をするので、補足説明を加える。

一1  廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として(一条)、総則(第一章)、一般廃棄物(第二章)、産業廃棄物(第三章)、雑則(第四章)及び罰則(第五章)について規定している。その中で、廃掃法は、産業廃棄物に関し、事業者はその産業廃棄物を自ら処理しなければならない(一〇条一項)と定めた上、産業廃棄物の収集又は運搬(一四条一項)及び処分(同条四項)を業として行おうとする者はそれぞれ都道府県知事の許可を受けなければならず、さらに、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分の事業の範囲を変更しようとするときは都道府県知事の許可を受けなければならない(一四条の二第一項)と定めている。そして、廃掃法(後記のとおり本件において適用される平成九年法律第八五号による改正前のもの)は、これらの規定に違反して「産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業として行った者」又は「産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分の事業を行った者」に対して三年以下の懲役若しくは三〇〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(二五条一号、二号)と定めた上、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関し、それらの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても同様の罰金刑を科する(三〇条)と定めている。

2  ところで、廃掃法を含むすべての環境に関する法の基本法であると解される環境基本法は、国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とした上、人の活動により環境に加えられる影響であって環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものを「環境の負荷」と(二条一項)、「生活環境」には人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含むと(同条三項)、それぞれ定めている。その上で、同法は、事業者が、廃棄物等の処理その他の公害を防止し、又は自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有し、廃棄物の適正な処理が図られることとなるように必要な措置を講ずる責務を有するほか、環境への負荷の低減に資するように努め、自ら環境の保全に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する旨を(八条)、国民が、環境の保全上の支障を防止するため、その日常生活に伴う環境への負荷の低減に努めなければならず、環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する旨を(九条)、環境の保全に関する施策の策定及び実施が、人の健康が保護され、及び生活環境が保全され、並びに自然環境が適正に保全されるよう、大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が良好な状態に保持されることなどの確保を旨として、各種の施策相互の有機的な連携を図りつつ行わなければならない旨を(一四条)、それぞれ定めて、右目的を達成しようとしている。

3  そして、廃掃法と同様に環境法の一環をなす海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律は、「排出」について客観的に「物を海洋に流し、又は落とすこと」と定義している(三条)。また、人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律三条一項所定の「排出」については、工場又は事業場における事業活動の一環として行われる廃棄物その他の物質の排出の過程で、人の健康を害する物質を工場又は事業場の外に何人にも管理されない状態において出すことをいい、人の健康を害する物質の排出が一時的なものであることは必ずしも同法三条の罪の成立の妨げにならないものと解される(最高裁判所第三小法廷昭和六二年九月二二日判決・最高裁判所刑事判例集四一巻六号二五五頁参照)。

4  右のような環境に関する法体系やその中における廃掃法の位置付けに加え、廃掃法が、一度侵害されれば復旧することが容易ではない生活環境や公衆衛生の保全あるいは向上を図るという目的を処罰の根拠として両罰規定をも設けており、しかも、その目的を達成するために、廃掃法が何人に対しても、みだりに廃棄物を捨てることや、産業廃棄物の収集、運搬、処分を業として行うことを禁止し、一定の要件を満たした場合に限り、都道府県知事が許可によってそれらの営業の禁止を解除するという建前に立って、廃棄物の適正な処理に関する行政規制を徹底しようとしていることなどの同法の構造等を踏まえると、廃掃法の刑罰規定を解釈するに当たっては、刑法における常習犯や未遂犯の処罰等、行為者に対する非難を主要な処罰の根拠としている場合とは異なり、生活環境や公衆衛生への負荷を加えることなどの客観的な状態を重視すべきであって、行為者の内心の心理状態等を重視することは相当でないというべきである。加えて、同法が規定する廃棄物の「処分」については、右のような許可の対象となるものであることに照らすと、行政庁による改善命令(一九条の三)等が適正かつ確実に行われる必要があるという見地からも、「処分」に該当するか否かが行為者の内心の心理状態等によって左右されるようなものであってはならず、客観的な状態に基づいて生活環境や公衆衛生への負荷の有無を判断できるような内容をもって定立されなければならない。

5  そこで、廃掃法が前記目的を達成するため、廃棄物の「処理」のうちでも、その「処分」については「収集又は運搬」に比して厳重な要件の下に許可基準を定めていることにかんがみると、廃棄物の「処分」とは、その過程において、生活環境又は公衆衛生を侵害するおそれのある一切のものをいうと解すべきである。そして、廃掃法が、廃棄物の「最終処分場」の設置の許可及び維持管理について、他の廃棄物処理施設に比しても特に厳重な基準を定めていることに照らすと、「処分」のうち、廃棄物により生活環境又は公衆衛生に対して直接的に負荷を加えるものを「最終処分」、その前段階として廃棄物を減量化、安全化又は安定化させるために物理的、化学的又は生物学的操作を加えるにとどまり、生活環境又は公衆衛生に対して加える負荷が付随的に発生するにすぎないものを「中間処分」というべきである。したがって、仮に廃棄物を暫定的に一定の場所に置いたとしても、その廃棄物の性質、形状、数量、地理的条件、行為態様等により、その廃棄物をその場所に置くことが周囲の生活環境又は公衆衛生に負荷を加えるものであれば、原則として「最終処分」に当たると解するのが相当である。もっとも、環境の保全は環境を健全で恵み豊かなものとして維持することにとどまるのであり(環境基本法三条参照)、公衆衛生の向上も将来において改善されることを念頭に置くものであるから、一時的に生活環境や公衆衛生への負荷を加える状態が生じたとしても、その状態が極めて容易に改善されて原状に復することができるような場合には、その状態を生じさせただけでは未だ「最終処分」があったということはできないと解される。

6  そして、廃掃法上の「最終処分」としては、土壌を利用して行われる「埋立処分」と海洋を利用して行われる「海洋投入処分」とが想定されているものと解されるところ、右のような「最終処分」の性質に加え、廃掃法の下位規範である廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令において、埋立処分を終了する場合には生活環境の保全上支障が生じないように当該埋立地の表面を土砂で覆うことや(六条一項三号本文、三条三号ホ)、埋め立てる産業廃棄物の一層の厚さはおおむね三メートル以下とし、かつ、一層ごとにその表面を土砂でおおむね五〇センチメートル覆うこと(六条一項三号ヲ)が定められており、埋立処分を今後行わない場合や廃棄物の厚さが一定の分量に達した場合にだけ廃棄物への覆土を予定していることに照らすと、適法な埋立処分の内容としても廃棄物への覆土が常に必要とされているものではないと解されることや、公有水面埋立法一条の「埋立」について、同法が土地を造成することを前提とした規定を設けている(二条二項三号、三項四号、四条一項三号等)ことなどにかんがみると、「埋立処分」とは、右5で定義したところの廃棄物の最終処分のうち、これを行うことによって地表及び地中を新たに創り出して、地表及び地中(人工物も含む。)等によって構成される生活環境の保全や公衆衛生の向上の支障の原因となるおそれのある状態を生じさせることを意味するものと解するのが相当である。

二  次に、本件における事実関係を検討すると、関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。

1  本件現場である「bセンター」は、南北を雑木林や杉林の山に囲まれた谷間を東西に細長く切り開いて造成し、西側の敷地出入口から東詰まで約三〇〇メートルの奥行きを有する産業廃棄物の中間処理施設であり、施設内は、東方に向かって約一〇度の上り勾配となっており、傾斜を利用して整地され、段々畑状に四段の平地が存在していた。

2  被告人Y2は、平成八年六月ころから、本件現場において、a社の業務として、本格的に産業廃棄物の中間処分業を開始し、一日平均ダンプカー一〇台程度の産業廃棄物を受け入れ、搬入された廃棄物を区分けした上で、焼却できるものは焼却し、コンクリート片等の破砕できるものは破砕し、鉄くずはリサイクルに出すなどして、分類及びリサイクルをしていたものの、焼却については野焼きをすることもあり、焼却した後の灰やコンクリート片を搬出したことは一切なく、いずれも地中に埋めたり、通路用地に敷いたりしていた。

3  被告人Y2やA及びB等のa社の従業員ら(以下「被告人Y2ら」という。)は、同年八月初めころから、右1のように段々畑状になっている本件現場の下方(西側)から数えて二段目(以下「二段目」といい、他の平地についても同様に略称する。)と三段目の各平地の間の斜面(以下「本件斜面」という。)に、事業者から受け入れた産業廃棄物や残土を放出するようになり、同月二三日の時点では、本件斜面は、既に大量のコンクリート片等が土砂から露出している状態であった。

4  被告人Y2らは、同日ころから同月二九日ころまでの間、一覧表番号1ないし4記載の各日において、二段目の平地に産業廃棄物を積載した株式会社cのダンプカーを受け入れ、a社の従業員がショベルカーで荷台から掻き出すなどして、本件斜面の下部南側にスレート片、プラスチック等の産業廃棄物を放出させた。また、被告人Y2らは、同月三〇日ころから同年九月五日ころまでの間、一覧表番号5ないし12記載の各日において、三段目の平地に、産業廃棄物を積載した同表各番号記載の各事業者のダンプカーを受け入れ、右平地西側の本件斜面に沿って、順次、同表各番号記載の各産業廃棄物をそのまま投下させた。

5  被告人Y2らは、一覧表記載のもの以外にも、再三、土砂混じりのコンクリート片、スレート、木くず、プラスチック片等の産業廃棄物を三段目の平地から本件斜面に投下させたり、本件斜面下部に放出させていたほか、適宜、他の業者から搬入された残土や四段目の平地で採取した真砂土を、三段目の平地から本件斜面に投下されたまま露出しているコンクリート片等の上に振り掛けたり、本件斜面の残土や産業廃棄物等をショベルカーで下方に押し出したりして、整地や地固めをしたほか、本件斜面の残土部分を掘って露出しているコンクリート片の付近に拡散して混合し、ショベルカーのバケット部分で斜面を何度も押さえつけて地固めするなどしていた。

6  被告人Y2らは、産業廃棄物の処分業を営み始めた同年六月ころから同年九月五日までの間、本件現場に搬入された産業廃棄物等について、同年八月中旬ころまでに鉄くずを一、二回搬出したほかは、最終処分場等に搬出することは全くなかった。

7  右行為の結果、三段目の平地の地表は、東側全長約二八・八メートル、西側全長約二〇・七メートル、北側全長約五二・三メートル、東西の最大全長約六〇・六メートルの長方形に近い楕円形となっており、本件斜面と接する先端部分の地表面には、敷き詰められた真砂土に混じって、搬入された産業廃棄物である握り拳大からコンクリートブロック大のコンクリート片が露出していた(甲七)。また、本件斜面は、二段目と三段目の各平地間の全長が約一一・七メートル、その間の高低差が約八・五メートルあり、下部北側では、斜面全体に黒色の土砂が覆い、コンクリート片、木くず、金属片、プラスチック片が露出し、また、斜面下部南側には、石膏ボート、壁ボード、スレート片、プラスチック片、ナイロン片、金属片、木くずが乱雑に積まれ、露出していた(甲七)。そして、三段目の平地と本件斜面とが接する付近の二地点を掘削したところ、一地点では、茶色土砂が認められ、断層面がアスファルト片混じりの黒色土砂と茶色土砂の二層になっていたほか、他の一地点では、木片混じりの茶色土砂が確認され、断層面がアスファルト片混じりの黒色土砂の層と木片混じりの茶色土砂の層の二層になっていた(甲八)。

三  右二で認定したとおり、被告人Y2らは、一覧表記載のとおり、本件現場において、平成八年八月二三日ころから同年九月五日ころまでの間の前後二四回にわたり、搬入事業者のダンプカーに積載されていた産業廃棄物を、三段目の平地から既に産業廃棄物と残土が渾然一体となっていた本件斜面に投下させ、あるいは、二段目に搬入させたダンプカーから本件斜面下部に同様の産業廃棄物を分別することなく掻き出して放出させるなどしており、搬入した産業廃棄物の量は合計約九一・一トンもの多量に上っていた。しかも、被告人Y2らは、右の間において搬入した本件産業廃棄物を他の最終処分場等に搬出することが一切なかったばかりか、三段目の平地から右斜面に残土や真砂土を振り掛けたり、ショベルカーを使用して残土や真砂土とブロック片等の産業廃棄物とを混合し、さらにその上から地固めをするなどの行為を繰り返していた。そのため、被告人Y2らが搬入した本件産業廃棄物は、本件斜面下部に野積みされたまま露出していたものも含め、全体として、本件斜面付近にあった残土や真砂土、種々の産業廃棄物等と混合され、広範囲にわたって広がっていたものである。右のような本件産業廃棄物の状況に照らすと、本件産業廃棄物は既に本件斜面付近の地表及び地中の一部分を形成するとともに、本件産業廃棄物のために本件現場及びその周辺の生活環境の保全や公衆衛生の向上の支障の原因となるおそれのある状態が発生していたということができ、しかも、その状態が極めて容易に改善されて原状に復することができるような状況にはなかったものと認められるから、被告人Y2らは本件産業廃棄物について「埋立処分」に該当する状態を生じさせていたものと認定することができる。

四  なお、弁護人らは、被告人Y2らは、廃棄物処理施設の設備や人員が産業廃棄物の搬入量の急増に対応しきれなくなったことから、設備や人員が整うまで本件産業廃棄物を「保管」していたにすぎないと主張するところ、既に述べたとおり、廃掃法上の「処分」に該当するかどうかは客観的な事情に基づいて判断されるべきであって行為者の内心の心理状態等に左右されるものではないから、仮に被告人Y2らが「保管」の目的を有していたとしても、右のとおり「埋立処分」に該当する客観的状態が発生していた以上、被告人Y2らの行為が「保管」にとどまるものでないことは明らかであって、右主張は失当というほかない。

以上のとおりであるから、被告人Y2らが産業廃棄物の最終処分としての「埋立処分」に該当する状態を生じさせたことは優に肯認できるというべきであって、弁護人の前記主張は採用することができない。

(法令の適用)

平成九年法律第八五号による廃掃法二五条二号及び三〇条の改正については罰則の適用に関する経過規定の定めがないと解されるので、被告人Y2の判示所為は、営業一罪として、行為時においては刑法六〇条、右改正前の廃掃法二五条二号、同法一四条の二第一項、右改正前の同法三〇条に、裁判時においては同改正後の同法二五条二号、同法一四条の二第一項、右改正後の同法三〇条二号に、被告人会社に係る判示事実は、右同様に、その時点においては右改正前の同法二五条二号、同法一四条の二第一項、右改正前の三〇条に、裁判時においては同改正後の同法二五条二号、同法一四条の二第一項、右改正後の同法三〇条二号に、それぞれ該当するところ、これらはいずれも犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから、いずれについても刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、被告人Y2について所定刑中罰金刑を選択し、各所定金額の範囲内で、被告人会社及び被告人Y2をそれぞれ罰金三〇万円に処し、被告人Y2において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により、金五〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、産業廃棄物の収集、運搬及び中間処分業の許可しか受けていなかったa社の代表取締役であった被告人Y2が、同社の従業員らと共謀の上、右許可の範囲の変更を受けないまま事業の範囲を変更し、同社の産業廃棄物の中間処理施設においてその最終処分である埋立処分の事業を行ったという事案であるところ、被告人Y2らの行為が産業廃棄物処理行政をないがしろにし、廃掃法の目的を踏みにじるものであることはいうまでもない。その上、同被告人らが埋立処分を行った産業廃棄物の量は約九一・一トンと多量であり、土地の形状までも大幅に変更されていることを考慮すると、本件犯行が周囲の生活環境や公衆衛生に与えた影響も軽視することはできない。そして、被告人Y2は、同社の代表取締役として中間処分の事業を営んでいたところ、産業廃棄物の処分単価を引き下げたことにより、その搬入量が急増し、同社としての処理能力を超えてしまったにもかかわらず、取引業者を失うことを怖れるあまり、廃棄物の受入れを中止しようとしなかったばかりか、従業員に命じ、あるいは自ら率先してショベルカーを運転し、搬入した産業廃棄物に覆土するなどして、積極的に許可の範囲を逸脱して埋立処分を行うに至ったのであるから、廃掃法の立法趣旨や自らの行為が周囲の生活環境や公衆衛生に及ぼす影響を何ら省みることなく、経済的な利益の追求だけを目的として敢行された自己中心的な犯行というほかなく、その経緯や動機に酌量の余地は全くない。加えて、被告人Y2は、同社の代表取締役として正に本件犯行を首謀し、かつ、主導したにもかかわらず、公判廷において不合理な弁解に終始しており、反省の姿勢が全くうかがわれないことは極めて遺憾というほかない。さらに、被告人Y2については、暴力行為等処罰に関する法律違反及び傷害の罪によって昭和五二年一月に懲役八月、三年間執行猶予・付保護観察に、傷害及び強要未遂の罪によって昭和六二年一二月に懲役一年六月、四年間執行猶予に処せられた前科がある。以上によると、被告人Y2、ひいては被告人会社の刑事責任はいずれも軽いものではない。

しかしながら、被告人Y2らが本件現場での営業を開始した後、暫くの間は搬入した廃棄物を分類するなどしており、当初から埋立処分を行う目的のもとに産業廃棄物を右処理施設に受け入れていたとまでは認められないこと、被告人Y2の右最終前科から本件犯行までに九年近くの期間が経過していたことなど、被告人Y2や被告人会社のために酌むべき事情も認められる。

そこで、これら諸般の事情を総合勘案した結果、被告人Y2及び被告人会社に対し、それぞれ主文掲記の刑に処するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人Y2及び被告人会社について各罰金三〇万円)

(別紙)

(別紙) 犯罪事実一覧表

<省略>

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